オリエンタル・クイン号 日本脱出グアム・マリン・ツアー

●マリン・ツアーの楽しさ
 最近の "海外旅行ブーム" の中にあって、マリン・ツアー (船旅) が特に注目されている。四方を海に囲こまれている日本列島の住民の我々にとって、海の外に出ること事態が一種のアドベンチャー (冒険) である。
 ヨーロッパ大陸の人々にはこの感覚は分らないだろう。見渡せば国境というのも、日本人にとって分らないように・・・。
 つまり、私たちが一歩陸を離れれば、そこには、見知らぬ外国につながっている無数の航路 (マリン) が横たわっているのだ。
 このLPでは、外国旅行をしたことのない人に、そして航空機での旅行体験者にも "マリン・ツアー" の醍醐味を伝えたいと、寺内タケシが、1971年9月 "グアム・マリン・ツアー" の体験から生んだ新企画である。
 そして世界で初めての太平洋上録音という試みも加えて、寺内タケシとブルー・ジーンズ、レコーディング・スタッフの並々ならぬ努力が結集して完成したものである。
 二枚組の構成は、寺内タケシのナレーションと毎夜行なわれた "コンサート" "ゴー・ゴー・パーティ" を中心に船内で行なわれたあらゆる催事も盛りこんでいる。
 出航の模様から、操舵室、グアム島上陸、の現実音も収録し、"マリン・ツアー" の決定盤が出来上ったのだ。

●太平洋の別世界・・・グアム島
 東京・晴海港を出航して108時間と40分 (飛行機で3時間余)、そこは太平洋の別世界・グアム島がある。
 マーシャル諸島・マリアナ諸島・カロリン諸島の2千以上の小さな島からなる南洋諸島 (ミクロネシア) の中にあり、玄関口にあたる最南端に位置している。
 東京から、約2千5百キロの距離。ミクロネシアでは最大の面積。いわば、太陽に一番近い別天地である。
 灼熱の太陽、波間に輝く白いサンゴ礁、真青な空にそびえるヤシの林、純白の砂浜は、旅人の心を充分休ませてくれる。
 グアムの人口は約11万人で、現住民のチャモロ人が4万、約7万人がフィリピン人、ミクロネシア人、アメリカ人、中国人である。
 また、グアムの魅力の一つは、世界の高級品を安価で求めることのできる "自由港" であることだ。  海外旅行を楽しむ上に必要な条件をすべて備えているのが、この "グアム島" である。まずは、"日本脱出!レッツゴー!マリンツアー"

●寺内タケシとブルー・ジーンズ航海日記
〔第1日 (東京・晴海港) 快晴〕
 東洋郵船・オリエンタル・クイン号 (1万2千トン) に乗船。前夜、楽器、アンプ類約5トンを積み込んであるので全員、軽装。
 11時20分。いよいよ日本脱出。レコーディング・スタッフは、落ち着く間もなく、出航の "ドラ" の音の収録。デッキに出て見送っのファンの声に答える。乱れ飛ぶ五色のテープが美しい。スモッグも今日は、晴れて快調の出航。サウンドィッチとコーヒーの昼食後、ミルロ・ホール (Bデッキ・演奏会場) てアンプ・セット。寺内タケシの指揮でライトのセッティング。〈良い演奏は、良いセッテイングから〉全員ヤル気充分、レコーディング・スタッフ、安藤ディレクターをはじめ、録音技師のヤマちゃんとフクちゃんも大ハッスル。機材の点検に余念がない。

〔第2日 (鳥島沖通過) 曇り波高し〕
 朝10時30分、合図の汽笛で甲板に出て、逃難訓練。全員真剣な面持ちで船長のチェックを受ける。不完全なライフジャケットは、すべてやりなおし。いよいよ今晩から演奏開始。8時スタート、1時聞の予定がノリに乗って2時間近くの演奏。サイクル数とボルテージが不定なので困難であったが、雰囲気抜群で録音。昼食の中国料理でスタミナはバッチリ、演奏終了後腹はペコペコ、コックさんが気をきかせてくれ夜食のオニギリで満した。夜、小笠原諸島を通過。いよいよ明日から外洋だ。

〔第3日 (太平洋ド真中) 快晴〕
 朝食、メザシ、納豆、味噌汁、海苔という和食メニュー。バンザイ!日本人。潮の香りが小気味良い。日射し強く、後甲板にて日光浴。そろそろ乗客の交流が出来てきたようだ。昨夜の演奏を喜んでくれる。昼食後、"麻雀大会" 開催。我々は、練習とレコーディングがあるので参加せず。夕食は、ビフテキ、オニオンスープ。今夜は、ゴーゴー大会。7時頃には乗客がミルク・ホールに集まってきた。まだ一時間もあるのに。全員汗びっしょりで大奮闘。デッキに出ると風が気持ち良い・・・。夜11時、時差のため時計を三十分進める・・・。

〔第4日 (サイパン島沖通過) 快晴〕
 昨夜のゴーゴー大会で知り合ったカップルが後甲板に集まって、真青な海、コバルトの空をバックに記念写真を撮りあっている。日光浴に余念がない1日。フォーク・ソングを歌ったり、気の早い連中は、太陽の下でコンパを開いていたり、お年の夫婦も若さをとりもどして、若い連中と肩を組みあって踊っている。・・・とっても国内では見られない零囲気があって楽しい。
 夕方5時、Aデッキに集って夕陽をバックにジャケット撮影。三上カメラマン大いに乗っていた。「ブルー・ジーンズじゃなくて、バックが最高!」ですって。
 夜8時からは、"ゴーゴーパーティー" 若者は軽装でタオルを持ってくる人やウチワを持ってくる人もいた。終了後は、劇映画の上映「座頭市」。「イョッ!カツシン」カケ声も賑やかに鑑賞。
 またまた11時、時計を30分進める。これで日本より1時間早い時差となる。美しい南十字星が次第に近づいてきた。

〔第5日 (マリアナ海域) 晴れ〕
 朝10時30分、マリアナ海域戦没者慰霊祭。メンバー全員、船員の制服・制帽を着衣。上部甲板に出て演奏参加。英霊に深く頭をたれ黙祷。海はあくまでも静かで鏡の如くおだやかであった。
 毎ゆかば 水清くかばね
 山ゆかば 草むすかばね
 大君の 辺にこそ死なめ
 かえりみはせじ
 戦争を知らない若いメンバーは、あたりの静かさに心打たれ涙を流した。この海の底に眠る英霊のために。
 いよいよ今夜グアムに入港という情報を聞く。乗客もそわそわ、我々メンバーは、午後から練習とレコーディング。夕食は、鳥のモモと魚の塩焼。食事の時間が楽しいのだ。知らない同志が心から打とけるのもマリン・ツアーの良さである。夕食後、甲板に集まって酒盛りを皆でやった。お月様がとっても大きい。星は無数に輝いている。グアム島アプラ湾の灯が次第に近づいてくる。その内、タグ・ボートが2隻。エンジンを止めた本船をひっぱりはじめた。4日半、体を揺っていたエンジンが静止すると妙な感じだ。真夜中というのに全員、上陸の興奮に酔っている。
 イミグレ (入国審査) のため、パスポートを提出。深夜のため下船は明朝となった。

〔第6日 (グアム島上陸) 快晴〕
 9時30分用意されたバスで、グアム島めぐり。我々のバスはがなりオンボロ、20年前位の型でダブル・クラッチときている。先行するバスは流線型の最新式。2台のバスは、ココス島の発着地メリッソへ向った。
 アップ・ダウンの激しい地形にバスは息も絶えだえといったカンジ。ところがである、とっくの前に走っていた例の流線型のバスが立ち往生しているではないか。
 しかも、いつも乗客を笑わせていた関西からやってきたオッチャンが道路に出て両手を開いて何か身ぶりをしている。「エンジン・パー!」オッチャンのせめてもの英語の表現だったのだ。
 これ以来、オッチャンのあだ名が、「エンジン・パー」となった。
 メリッソから、船底がガラスのモーターボートでココス島へ。ココス島のサンゴ礁の中には、ナマコがいっぱい。ヌルヌルして裸足に気持が悪い。だが美しい波間と白い砂浜にただウットリ。泳いだり、寝ころんだり、最高の雰囲気。夕方、アガニア市内に出てショッピングを楽しむ。昨年もいった「マクドナルド」に集合。英語でカッコよく註文出来れば1人前。夜は買ってきたスカッチウィスキーで皆車座になって大宴会がはじまった。ほんとに楽しい一日でした。

〔第七日 (グアム島めぐり) 快晴〕
 グアム島は、日本の淡路島位の大きさだが見物は一日あれば充分だ。あとは、マリン・スポーツ (サーフィン・トローリング・ヨット、フィッシングなど) がいい。寺内タケシ御大は、いつも水上スキーをやる。冬は、毎年蔵王のホテルを貸り切って全員でスキーを堪能するので一年中スキーをやっているみたいだ。
 今夜12時、出航するので残りの時間を観光とショッピングにさく。アイスクリームの旨い店。ジーンズが沢山売っている店。昨年も来ているので上手に廻ってこれた。
 色々な想い出を乗せてオリエンタル・クイン号は、アプラ湾を離れていった。左手には、アンダーソン基地の水銀灯がまぶしく光り、青白い航跡を残しまた太平洋上に向った。

〔第八日 (マリアナ海域) 晴れ〕
 グアム島の青い空、白い砂が目に焼きついている。乗客は、失敗談や買物の自慢など各所で話の花を咲かせていた。
 船全体が同じ気持で、心は日本に向けられている。演奏していても日本の曲のリクエストが多いのだ。レコーディングの曲数もたっぷりでメンパー全員のんびりと帰国までの時間を過している。夕食は、ハンバーグと魚のフライ、それにスープとサラダとボリュームがあり大満足。

〔第九日 (太平洋上大爆笑) 晴れ〕
 もうあと二日で日本に到着。昼食後、前デッキに集まってジャケット撮影。時おり強い風が吹きぬけるので制帽が飛びそうだ。
 夜は、我々が企画した "仮面舞踏会" がある。グアムで買った派手なアロハシャツとムームーを着た老カップル、新婚さんの甘いカップル、"エンジン・パー" のオッチャンの女装など思い思いのアイデアで会場は大爆笑。
 いつものゴーゴーパーティーで尻ごみしていた人がやたらに社交ダンスが上手だったり、演奏している我々も楽しんだ。エンディング近くになるとグッと照明を落してスローな曲を流し、船で知っあったカップルが見せつける中で演奏を続けたわけでありんス。

〔第十日 (もうすぐ日本だよ) 曇り〕
 今夜は "素人のど自慢大会"。出場者は50数人。曲もバラエティに富んでいて演奏していて楽しい。一位は、ドスのきいた声で「浪曲子守唄」の関西のオニイさん。二位は、度重なるイントロの失敗にもかかわらず最後まで歌い通した「赤いグラス」の若者。三位は、若々しい歌声の女一人、男二人でギターを持って登場の「想い出の渚」。そして四位は、声色で熱演のオトウさん「さのさ」という結果。これまた爆笑に次ぐ爆笑。船旅は、こんなにも人間を回復させるのかと再認識した。乗船の時は知らなかった人達がまるで親子、兄弟の様に親しくなるなんて!

〔第11日 (あれが日本の島だ!) 快晴〕
 日本脱出して11日目、長い様で短い航路でした。別れを惜しむ顔と顔、手と手。
 寺内タケシとブルー・ジーンズは、音楽を通して皆と握手をしてきたわけです。
 東京湾に次第にすいこまれていくオリエンタル・クイン号の船体に広い太平洋を一所懸命航行したお礼を言ってあげましょう。シー・ユー・アゲイン (また逢う日まで)。こんな楽しい想い出を一人でも多くの人に知ってほしい・・・。こんな気持でブルー・ジーンズのメンバーはガンバリました。少しでも、この楽しさが伝われば、全員喜びにたえません・・・。あなたとまたどこかの海で、会いましょう・・・。≪ビバ!マリン・ツアー≫

閉じる