万里長城

 日本人の心、原点を前作品・芸術祭参加作品『羅生門』で探っていた寺内タケシは、このLPで、その原点とも言うべき源を発見した。これは中国音楽にチャレンジする『日中国交回復記念・万里長城』である。
 単純に日中国交回復ムードに便乗した作品でない事をおことわりしたい。何故なら、数年前から日本人の原点を音楽で表視しようとしていた寺内タケシが、日本音楽の源である中国音楽をいつの日か手がけたいと念願していたのである。ここで描かれている中国は、現代ではなく古代の中国である。寺内タケシ自身が抱いている "夢の中国" を音楽で再現したのである。前作の芸術祭産か作品『羅生門』があったからこそ、このLP『万里長城』が完成したわけだ。八億の人口と日本の二十六倍の面積を保有する "中国"、いまこそこの偉大な隣人に目をしっかり向ける時なのだ。

『万里長城』について一問一答
Q:このLP制作の苦心は?
寺内:我々の身近に "中国音楽" の文献・資料が少ないのでキングレコードや友人を通じて収集しました。LPが約四十枚、EPが三十枚の中から参考にして制作しました。もちろん私のオリジナル「楊貴妃」、「万里長城」「竜神祭」も文献から私なりのイメージで制作していきました。
Q:オリジナルのききどころは?
寺内:『楊貴妃』では、私の抱いている "夢の中国" を描いているわけですが、白楽天の「長恨歌」を美しい北京語でバックにからませています。
 『万里長城』は、序曲から第四楽章そしてフィナーという交響曲の形式をとり、長城を作った民族の偉大さとその苦しさ、時の移り変りを表現してみました。そして、『竜神祭・春節』は、お正月の楽しさを四分の六拍子という変化拍子と、エンディングでは、リズムを三重に分けて立体的なサウンドを完成させました。
Q:寺内さんは、エレキ・ギターのほかに何か珍らしい楽器を演奏しているそうですネ!
寺内:そうです。ブルー・グラス (ウェスタン音楽の一分野) では、よく使われているフラット・マンドリン (普通のマンドリンの腹の部分が平らな楽器) をからませています。大陸的なのんびりした募囲気を出すために使用しました。フラット・マンドリンのトレモロで音のノビを出し、一層親しみを盛りこんでみました。
Q:この『万里長城』を制作して感じたことはどう言うことですか?
寺内:私は、音楽を通して "夢の中国" を再現してみたかった。日本ど中国の国交が回復することは大変良いことですが、夢をこわさないでほしいと思います。それに音楽的に感じたことですが、多くのレコード資料を聞き、大編成のオーケストラが民族楽器を充分にとり入れていることに感心しました。

曲目解説
楊貴妃
 楊貴妃の悲しくも美しい物語を壮大なイメージで描く大作。寺内タケシのロマンチシズムをふんだんに盛り込んだ "ダイナミック・ロマン・サウンド" がここに完成た。
 中国の民族楽器とエレキ・ギターを見事に融合させた寺内タケシのオリジナル作品である。
 今から千二百年以上も昔。唐の玄宗皇帝は、革新政治を施行し、人民の生活の安定につとめた。しかし、六十一歳の時、二十六歳の美しい楊貴妃に心を奪われ、政治に身が入らず、人民は飢えに泣いた。玄宗皇帝の寵愛を一身に受けた貴妃は、歌舞・音律に堪能だけでなく男の心をとりこにする才能も持ちあわせていたのだ。この頃、貴妃の義児となった安禄山は、次第に勢力を加え玄宗に叛く様になっていた。
 禄山は、楊氏一族の国忠もを殺し、さらに玄宗に貴妃をを殺すよう迫った、形勢の悪い玄宗は遂に高力士に命じて貴妃を絞殺した。
 唐代随一の詩人白楽天は、「長恨歌」の中にこの傾国の美女・楊貴妃を描写してあますところがない。
 美しい中国語 (北語) の「長恨歌」をバックに、一大絵巻物語を寺内タケシが再現した。難解な音楽が流れる現代に、千二百年前の息吹きが入りこんでくる様なさわやかさを感じさせてくれるだろう。 〈楊貴妃 (七百十九年〜七百五十六年)山東省の人〉
喜洋洋
 イントロは、シンセサイザー (特殊音響装置) でフェージング現象を発生させたもの。
 急激に朝るくにぎやかなエレキ・ギターのメロディとフラット・マンドリンの伴奏がからむ。
 日本の二十六倍という広大な中国大陸と肥沃な農土に働く人々の姿を想像させる。
 中国民謡「喜洋洋」を明るいロック・リズムに乗せた作品である。
何日君再来
 待ちこがれる乙女の心をリリカルにまとめあげた有名な作品。フラット・マンドリンの素朴なメロディーとエレキ・ギターのなめらから音色が心をなごませてくれる。
 「君いつの日帰る・・・」詩情あふれる "中国ロマン編" である。
 チョットお年の人は、"壊メロ" として聞かれるでしょうネ。
合毛女より「軍民団結一家人」
 中国の人たらの団結力の強さを石井イワオがロック・タッチにアレンジした作品。大陸に息づく力強い鼓動が伝わってくる様だ。現代の中国を表現した秀作である。
紅色娘子軍より「紅色娘子軍連連歌」
 「紅色娘子軍」は、中国の十年内戦期 (1927〜1937) の海南島が舞台。貧農の娘が悪徳地主との戦いの中で次第に目覚めて解放軍の女性隊の一員として成長していく過程を描いた "意欲作" である。
 単に表面的な強さではなく、内に秘めた精神の団結を再現している。
万里長城
 「万里長城」は、秦の始皇帝が名将豪恬に命じ匈奴 (蒙古にいたトルコ族の一派) を撃退し、防備のために建設したもの。高さ約10米、幅5米。全長二千四百キロメートルという驚異の建造物である。始皇は、中国統一を計るためにつくったと言われている。長城城は戦国時代から名国の要所にあるものを、北方の長城をつなぎあわせたものである。この「万里長城」は、第四楽章で構成きれ、交響曲形式をとった。
○序曲 (オーバチュア)
○第一楽章「応戦行軍」
○第二楽章「秦の始皇」
○第三楽章「匈奴襲来」
○第四楽章「万里長城」
○終曲 (フィナーレ)
 序曲は、テープの逆回転で二千年以上の昔に我々をひきもどしていく。ゴビ砂漠を渡ってくる風と砂の到来は匈奴の襲来をつげる。第一楽章「応戦行軍」は、行進する軍隊の音がなりわたり、次第に接近する様子を見事に描写している。
 第二楽章「秦の始皇」は、中国統一、中央集権制度をしいた秦の始皇帝を描き、万里長城を建造したその偉大な力を表現している。ここでは、なめらかなエレキ・ギターとフラット・マンドリンのおだやかなゆったりしたメロディーが流れている。
 第三楽章「匈奴襲来」ゴビ砂漠を吹き抜ける風と砂の嵐は、両軍にとって激しいものである。秦をせめる蒙古のトルコ族の一派は強靱だった。しかし、それにも増して強靱な「万里長城」が目の前に横たわっていたのだ。
 ○第四楽章「万里長城」〜終曲。その驚異の建造物の前に消えていった数多くの人民。人の力の尊さを見事に表現した情景描写。この "時の流れ" を寺内タケシのギターが悲しくも偉大な「万里長城」に挑戦した一編の "交響曲" とも言えるだろう。
彩雲追月
 「南の花嫁さん」の原曲。フラット・マンドリンが大陸的なムードを一層盛りあげている。合歓の並木を、お馬の背なにゆらゆら揺れて・・・とはじまる日本の歌は、この曲からとったと思われる。諸君のお父きん、お母さんに聞かせたらキット懐かしがるだろう。
薔薇處處開
 ロック・ビートに乗せて、ご存年寺内飾で再現。目にあざやかな芝生のグリーンと真赤な薔薇が咲き乱れている風情は、中国ならではの雰囲気がある。日本なら "お花見"。アメリカなら "オレンジ・ブロッサム・スペシャル" (花見特急) といったところ。
竜神祭 (春節)
 楽しいお正月のムードをはやしたてる様に花火や爆竹が、鳴りひびく中国のお祭り。
 スタジオ内に実際に爆竹を仕掛けた追力あるイントロ。4分の6拍子いう変化拍子のリズムからエンディングは、三つのリズムに分かれていく。

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