カントリー・ギターの魅力

これだけ知っていれば文句なし 〈カントリー・ミュージックの歴史〉
 このLPを聞く前にカントリー・ミュージックの起源などを頭の隅に入れていただきながら鑑賞してもらえれば幸いです。
 カントリー・ミュージックの誕生を、ナッシュビルで行なわれたグランド・オール・オープリーの開始した1925年とすれば、もう50年の歴史と言えます。しかし、そこに至るまでの経緯を辿ってみなければ、本当のカントリー・ミュージックの姿を知ることが出来ません。ひとくちにウエスタンと言われていますがアメリカの西部ではなく、南東部の音楽です。アメリカの地図の右の方に位置する南部アパラチア山岳地方から生まれてきました。
〈バージニア州、キャロライナ州、ジョージア州、ケンタッキー州、テネシー州〉の農民〈季節労働者をホーボーと言っています。方方に行くからでしょうネ?〉やキコリ、坑夫たちの間から生まれた民族音楽を "サザン・マウンテン・ミュージック" と言います。これらの民謡音楽が近代化され、ポピュラー化されたものが、カントリー・ウエスタンとか、カントリー・ミュージックといわれる様になったのです。これらも最初の頃は、"ヒルビリー・ミュージック" 〈お山の音楽、山男の音楽といった意味〉とか "マウンテン" と呼ばれていました。楽器は、ヨーロッパからの移民が持ってきたギターや民族楽器のダルシマーなどのほか、アフリカから送られてきたニグロたちが作ったバンジョーなどが加わってきました。これからも分る様に現代のポピュラー、ジャズなどは何かしらカントリー・ミュージックとかかわりあいを持っているといっても過言ではありません。ピューリタンたちが持って来たョーロッパの旋律、ブルース、スピリチュアル、ゴスペル・ソングなどなど、すべて脈々と伝わっているのです。歌の内容も、移民、開拓民、農民、木樵、カウボーイたちの生活から生まれたものが多く、あらゆる感情を素直に表現している。
〈カントリー・ミュージソクの三要素とプラスα・・・〉=3S+α
Simplicity(単純・素朴)
Sadness(哀愁感)
sincerity(誠実味)
カントリー・ミュージックを演泰する時もそして聞く時も、この三つのSを感じとってほしいといわれる、三種の神器である。寺内タケシのカントリー・ギターはこれにSomething New(なにか新しいもの)を吹き込み、素晴しい出来ばえの作品をこのLPに収めたのである。


第1面
1.北風
 "テキサス" ビル・ストレングスの歌で、日本では1957年に大ヒットした。本家のアメリカではあまりヒットはしなかったと言われる。日本の風土・気候にピッタリの日本人好みのウエスクンと言えそう。エディ・アーノルドの "ビンボー" を作曲したロッド・モリス(1953年)の作品である。北からの冷たい木枯しが吹き抜ける効果音が、臨場感を盛りあげている。チェット・スタイルを巧みに操って、リズミックにそして懐しさを一杯にこめて送るカントリー・ポップスである。

2.サウスランド
 タイトル通り南部の民謡が原曲。山岳地方の人々の気質をそのままこの曲に吹き込んだ作曲である。陽気で賑やか好きな反面、チョッピリさびしがりやの彼等の性格を的確にとらえている。カントリー・ミュージックでは、「ディープ・イン・ザ・ハート・オブ・テキサス」(テキサスの心に深く)の様に、自然や風土だけでなく心意気を描いた作品が多く見当る。
 インストルメンタル(楽器演奏)を中心としたグループは、必ずこの様なタイプの曲をレパートリーに入れて、ワーッと湧かせている。

3.マンション・オン・ザ・ヒル
 ハング・ウイリアムスの作品で、"丘の上の大きな家に住む彼女に愛を打ちあけたが、俺が貧しいので、愛を受け入れられなかった" というラブシック・ソングだ。
 ハンク自身も自作の中で一番好きな曲だったそうである。エレキギターにからんでフィドルとスティール・ギターが切々と咽び泣いているのが印象的である。カントリー・ミュージックの三要素を充分備えた=いわば完壁なカントリー・ミュージックと言える。

4.トーテム・ポール
 インデアンの木彫りの魔除けとして知られるトーテム・ポールを題材に、ロック調にアレンジした作品。スティールギターとのユニゾンから低音をきかせたエレキ・ギターの力強いリズミックな演奏がききどころ。スティールギター藤井三雄とのかけあいの息もピッタリだ。アメリカのカントリー・ミュージックでも、ジミー・ブライアント(エレキ・ギター)とスピーディ・ウエスト(スティール・ギター)のコンビは有名。最高のテクニックとアンサンブルを誇っている。

5.スティール・ギター・ラグ
 スティール・ギターをフューチャーしたインストルメンタル曲。作曲は、レオン・マッカウリフ。かけ合い部分のスリリングな演奏が聞きどころである。一つのミスもなく二人の息を合わせながら盛りあげていくエンディング。歌の内容も、「スティール・ギター・ラグのリズムを聞けば、心は踊り、足ぶみをすれば天使の声がひびきわたる一」「そして魂はきっとハッピーになることを受けあいます」

6.ワイルドウッド・フラワー
 サザン・マウンテンの名曲で、オリジナル・カーター・ファミリーが1928年にレコーディングしたものが最初である。傷ついた心と体を野生の花にたとえて歌われている。詞は古代ギリシャの詩人のある作品を引用したもので、後年フォークの神様と言われるウッディ・ガスリーがこのメロディを使って "ルーベン・ジェイムス号の沈没" として発表している。
 現在は、カントリー・ミュージックのエレキ・ギターのナンバーとしてあまりにも有名である。寺内タケシの見事なフィンガー・ワークが楽しめる曲で、スティール・ギターとフィドルをからみ合わせ、チェット・アトキンス・スタイルでブライトに仕上げている。

第2面
1.ロンサム・ホイッスル
 カントリー・ミュージックの神様と言われる故ハンク・ウィリアムスの作曲。日本のウェスタン界の大御所的存在のジミー時田のヴォーカルがこの曲の持つ淋しさを見事に歌いあげた秀作である。内容ほ、もう二度と会うことのできない恋人を思う終身刑の囚人を描いたもの。バック・コーラスが加わった "ローンワホワン"=Lonesomeという言葉を巧みに歌詞にとり入れ効果を盛りあげたところはさすがハンク・ウイリアムスである。
 カントリー・ミュージックの明るさと悲しさの二面性を持った中で、特にこの曲は哀愁感のある曲として有名。米軍キャンプでの演奏会では、故郷を遠く離れた兵隊たちは涙を浮べて聞き入ってくるのだ。

2.新聞売りのジミー少年
 マウンテン・ミュージックの有名なグループ、カーター・ファミリーのリーダーA・P・カーターの作品。ジミー時田のヴォーカルに、寺内タケシの12絃ギター、名倉あきらの5絃バンジョー、宮城久彌のフィドル、新庄ハジメのベースがからんでいく。
 レスター・フラットの歌で有名になった曲だが、この盤では、深味のある12絃ギターをフィーチャーさせているのが聞きどころ。内容は、酔っぱらいの父親を亡くし、母親を助けるため、朝早くから素足で新聞売りをするジミー少年の親孝行ぶりを描いている。エンディングの "モーニング・スター"(新聞名) という呼び声が印象的である。

3.リリース・ミー
 再びジミー時田のヴォーカルで、やるせなくせつない別れの歌を、円熟味を増したフィーリングで歌いあげていく。内容は、「君がもういやになったから別れてくれ、ほかに彼女が出来たから・・・君の唇は冷たいが、彼女のは暖かい・・・」という1954年レイ・プライスの大ヒット曲。1967年、イギリスのポップス歌手エンゲルベルト・フンパーディンクのレコードでリバイバルされた。

4.フレイト・トレイン
 ピーター・ポール&マリーなどの歌で知られるフォーク・ナンバーを寺内タケシは明るいカントリーに仕上げている。シャレたアレンジとギター・テクニックを楽しむことができる。カントリー・ミュージックの演奏の花形がエレキ・ギターである様に、チェット・アトキンス(1924年テネシー州出身のエレキ・ギタ一の名手)の演奏方法はC&Wの花形と言われる程。テクニックと華麓さ、時には、素朴で泥臭い両面を持っている。

5.タイガー・ラグ
 ディキシーの有名な曲を、チェット・スタイルで再現した。虎の吠える様子をジャズ・タッチで描いた楽しい作品である。この曲は、フランスのカドリールという社交ダンス用の「Get Out Of Here」という曲のパリエーションで、白人ジャズの先駆者として知られる "ニック" ラ・ロッカの手によるものである。彼は、1914年からオリジナル・デキシー・ジャズ・バンドのリーダーとしで活躍した。ニュー・オルリンズの初期のラグ・タイム・バンドの面影をしのびながら聞くのも一興である。

6.ギャザリング・フラワー
 ハンク・トンプソンとブラゾス・バレー・ボーイズそれにギャロピン・ギターの異名をとるマール・トラビスが加わったEP盤が日本では発売されている。作曲は、オルビレ・プロクター。広々とした牧場で可愛い花を集めて、あの人に送ろう・・・心ときめく花集めといった風景である。  常に自然と共に生活する開拓者たちのノビノビとした大らかさが曲全体に流れている。スティール・ギターとのかけあいと、見事なフィンガー・ワークでカントリー・ミュージックの醍醐味を伝えてくれる。 解説・木村治夫

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