トランペット・イン・ブルージンズ
トランペット/日野皓正  寺内タケシとブルージンズ  編曲/宮川 泰

 青空に両手を広げて、思いきり深呼吸をしてごらんなさい。ウーム、いい気持。何だかこう、自分が生きてるって感じがしますね。
 太陽がまぶしい。せめて一日に一回、責空に両手をひろげて、のびのびと、思いきりうまい空気をすってみたいものですが、都会にいては、そんなぜいたくはなかなか許されるものではありません。  第一、今年は天気が不順でやたらに雨が降るし、それにこの煤煙、この喧噪、とてもそんな気になれやしないというものです。
 だから、私達は静かなもっと緑の豊かな土地へ行って、この日頃のうっぷんを晴してみたくなるのだし、冒頭に書いたのも、実は、私達の満たされぬ秘かな欲望が、仮に実現されたらなあという願いをこめた私達の偽らぬ気持の表れに他をならないのです。
 ほんとうにせせこましくて、絶えずノイローゼや胃の痛くなるような事件が起るこの都会には、もう住みたくないというのが偽らぬ私達の気持です。
 欲望不満が昂ずると、人間はどんな心理になるかも知れないのだし例えば集団欲求不満なんて事になったら、それこそ都会は爆発寸前の爆弾をかかえているようなものに等しくなります。
 まあ、これはあくまで煮つまった都会生活の、チッポケなレジスタンス以外の何物でもない、と言ってしまえばそれまでですが、冗談抜きにこの問題はもっと真剣に考えられていいはずです。
 だが、この忙しい毎日に、そうやたらに都会を離れるわけにもいかず、せめてその青空に両手をひろげ、深呼吸したときの、あのすがすがしいスカットした気分にさせてくれる音楽でも聞いていただきたいと思い最近のヒット曲「青空に両手を」を中心に、おなじみのヒット曲をズラリと揃えて、こんなアルバムを作ってみました。
 選曲はスカット、そして演奏は日野皓正のトランペット署をフィーチャーし、それに我国No.1のエレキ・ギター・グループ、ブルージンズをバックにした演奏もスカット、とに角スカットずくめのこのアルバムを聞けば、あなたの心の中もスカットすること受け合いです。
 トランペッターとしての日野皓正の実力については既に定評のあるところだし、一方のブルージンについてはベンチャーズがブットンダほどその腕前は今や世界的、ここではあくまで日野皓正のラッパをたてていますが、両者のイキの合ったプレイはこのアルバムを素晴らしいものにしてくれました。
 アレンジもモダンで良く、トランペットという金属的なシャープな音色と、エレキ・ギターの腹の底にビンビン響くようなダイナミックなサウンドの組合わせがとてもフレッシュで、トランペットとエレキ・ギターを組合わせたアイデアは成功でした。

〈SIDE 1〉
1. 青空に両手を
 アルバムの初頭を飾るこの曲はごぞんじワード・ウェルマンとケンツの演奏でヒットしたものです。 この曲のヒットで、今まで全く無名のグループだったワード・ウェルマンとケンツはたちまち有名になってしまいました。タイトル通りメロディアスな、しかも非常にアメリカ的な明るさを持った美しい曲です。ステュー・フィリップ作曲。尚、東芝期待のニュー・グループ“キューティQ”もデビュー曲としてこの曲を吹き込んでいる事をつけ加えておきましょう。
2. シンキング・オブ・ユー・ベイビー
 既に公開されたMGM映画「クレイジー・ジャンボリー」の中デイヴ・タラーク・ファイヴが歌った曲です。あの映画はスタン・ゲッツとアストラッド・ジルベルト、アニマルズなど、多くの歌手やバンドが多数出演したとても楽しいものでしたが、ディヴ・クラーク・ファイヴがこの歌をうたったシーンは特に印象深いものがありました。ディヴ・クラークとオルガンのマイク・スミス共作になるオリジナルで、昼も夜もいつもお前のことを想っているよという熱っぽい恋の歌です。
3. ダイアモンド・ヘッド
 今更説明を要しないベンチャーズのビッグ・ヒットです。一説によるとベンチャーズのレコードは既に40万枚を完り尽したと言われています。“ダイアモンド・ヘッド”というチャールストン・ヘストン主演の同名のコロンビア映画がありましたが、この曲はあの映画に関係なくD・ハミルトンのオリジナルです。“ダイアモンド・ヘッド”はハワイにある有名な岬のこと、その雄大で南国の詩情ただよう美しい光景がしのばれる。ダイナミックなスタイルあふれる曲です。
4. 朝日のあたる家
 原曲はニュー・オルリンズで古くから歌われていたトラディショナル・ナンバー。それをイギリスの5人組アニマルズが、見事なリヴァプール・ナンバーに仕上げて全米ヒット・パレードの第一位に送り込んだのがきっかけで陽の目を見ました。“朝日のあたる家”という紅燈宿に足をふみ入れて、どうにもならなくなった不良息子が、お父さんやお母さん、どうか弟達には僕みたいな人間にならないように言い聞かせて下さいという懺悔の歌で、やりきれないようなブルーな、重々しい感じの曲です。
5. ハート・オブ・ストーン
 「テル・ミー」や「タイム・オン・マイ・サイド」のヒット曲を飛ばしているリヴァプール・サウンド・グループ、ローリング・ストーンズのニュー・ヒットです。ロンドン乞食などという、余り有難くないアダ名を頂戴しているローリング・ストーンズですが、歌の巧さでは定評のあるところ、この曲も全米ヒット・パレード最高位16位にチャートされるというスマッシュ・ヒットとなりました。ローリング・ストーンズのリード・ヴォーカルとハーモニカを担当するミック・ジャガーとギターを担当するケイス・リチャードの共作で、ねばっこい、R&M風の曲です。
6. カレン
 フジ・テレビから毎週月曜日放送されたドラマ・カレン・の主題歌です。お茶目で陽気な高校生の物語“カレン”はカレンに扮するデビー・ワトソンの可愛らしい魅力も手伝って茶の間では大変な評判を呼んだものですが、テレビと共にこの主題歌も大ヒットしました。明るいサーフィンスタイルの楽しい曲で、ボブ・モーシャー(詞)、ジャック・マーシャル(曲)が書きました。
〈SIDE 2〉
1. 悲しき叫び
 「朝日のあたる家」と同じ、アニマルズの放ったヒット曲です。もともとこの曲は、今はなきサム・クックが自作自演した曲なのですが、アニマルズが再びとりあげリバイバル・ヒットさせたものです。アニマルズは、数あるリヴァプール・グループの中でも、とりわけワイルドな、荒々しい演奏と歌で人気がありますが、この曲もアニマルズならではの歌いっぷりが受けたのでしょう。
2. ゴールドフィンガー
 大ヒットを続けるジェームズ・ボンド・シリーズ第三作「ゴールドフィンガー」よりそのテーマ・ソングです。極悪無比をもってなる金塊王ゴールドフィンガーなる人物を相手に我等が007が相も変らず胸のすくような活躍を見せてくれましたが、あの映画の随所に流され、映画の効果を一層高めたのがジョーン・バリーの作曲したこの曲です。ミステリアスなムードあふれる、一風変ったメロディーは映画同様大ヒットしました。
3. 10番街の殺人
 ロレンツ・ハート〜リチャード・ロジャースの有名なミュージカル作家チームが1936年のミュージカル「オン・ユア・トゥーズ」のために書いた曲です。そして、あれから約30年経った今、ベンチャーズが見事な自分達のスタイルに消化してごらんの通りヒットさせてしまいました。ベンチャーズは、古いスタンダード・ナンバーを巧みにアレンジしてしばしばヒットさせていますが、この曲はその最も成功したものの1つでしょう。気品をたたえたメロディの中に、不思議な戦慄を覚えさせる曲ですね。
4. 青い渚をぶっとばせ
 オリジナル・タイトルを「Kickstand」というこの曲は「夢のマリーナ号」に続いて、ベンチャーズの放ったニュー・ヒットです。作曲はドン・ウィルソン、ノーキ・エドワーズ、ボブ・ボーグル、メル・テイラーの4人、つまりベンチャ−ズのオリジナルです。ベンチャーズ得意のギター・サウンドを100%巧みに使ったロック・ナンバーです。
5. クルーエル・シー
 これもベンチャーズのヒット・ナンバーとして知られています。「急がば廻れ'64」のB面にカップリングされていたものでM・マックスフィールドのペンになるオリジナルです。“クルーエル・シー”というのはそのまま訳せば“残酷な海”ということですが、この曲からはそんな感じは余り受けません。アップ・テンポのスインギーな感です。
6. 逃亡者
 デビッド・ジャンセン、バリー・モースが出演するテレビ・シリーズ「逃亡者」のテーマ・ソング。テレビの人気が上昇するにつれ、曲の方も次第に注目されるようになりました。ジャンセン自身のレコードもありますが、ベンチャーズの演奏したものに何といっても人気が集中しています。L・ジョーシの作曲。

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