3. 真空管アンプの良さ (2)真空管の動作と音質
ギター・アンプの音質と真空管の動作の関係ですが、そんなに難しいことではありません。
ヴァン・ヘイレンがやったように、あるいは寺内タケシ氏のロシア公演での宇都木裕氏の証言のように、出力管にドーッと電流を流して使うと厚みがあり、粒立ちのよいサウンドが得られます。
だったら、みんなたくさん電流を流して使えばいいではないかと思うでしょうが、そうはいきません。出力管がもたないのです。
真空管パワーアンプからどれだけ出力が取れるかというと、これはほぼ出力管にかける電圧 (プレート電圧) に比例します。
しかし、出力管には最大定格というものがあって、無制限にはかけられません。それに他のパーツ、とくに電源部の電解コンデンサーの耐圧の問題があります。だいたい上限500Vです。したがって、プレート電圧もそれ以下になります。これ以上、たとえばマーシャルに使われている6CA7/EL34は最大定格800Vですから、まあ750V程度までかけられますが、今度は電流が制限されます。真空管にはそれぞれ、熱的に処理できる限界があります。これをプレート損失といいます。単純にはプレート電圧×プレート電流です。6CA7で25W、フェンダーで使われている6L6GCは35Wです。この値を超えて出力管を駆動するとプレート (真空管内部の一番外側の金属板) が真っ赤になります。ヴァン・ヘイレンはこうして真っ赤にしてまで電流を流して使っていたようです。当然真空管の寿命は短くなります。もし、暗いところで真空管アンプをのぞいたときに赤くなっていたら、電流の流れ過ぎですから、再調整か修理の必要があります。

 2. 真空管アンプの良さ (1)広告コピーのウソ
ギター・アンプの世界では、未だに真空管を使ったアンプがハイエンドのアンプとして評価を得ています。どこのメーカーも真空管アンプが高ランクの商品になっています。しかし「なぜギター・アンプは真空管か?」を技術的に説明することは容易ではありません。単に「音がよい」だけで評価してもよいのですが、特性やメンテナンス、寿命、パワー対費用などを考慮すると、トランジスター・アンプが有利なだけに、「クラシック・カーの良さ」みたいな価値観だけで語れるものではありません。サウンドとしては、真空管式は緻密で明るい感じがします。歪み成分の違いなのでしょうが、トランジスター式はどこかザラついて乾いた感じがします。ギタリストは真空管式をよく「音に芯がある」とか表現しますが、きちんとダシを取ったお吸い物とそうでないお吸い物の違いみたいなものでしょうか。技術的にいうと、真空管式ギター・アンプの要点となるのは、ある程度パワー管に電流を流すことと、出力トランスの利点(二次側でスピーカーの逆起電力をショートさせる)を活かすことです。ヴァン・ヘイレンが真っ赤っかになるほどパワー管に電流を流してアンプを使ったとか、寺内タケシ氏のソ連公演に同行した宇都木裕氏が「ソ連は(コンセントの)電圧が高かったので音が良かった」などというエピソードはどれもたくさん電流を流したアンプのサウンドのことをいっているのです。ただ、楽器店の宣伝で「このアンプはA級!」などと書いてあるものがありますが、ほとんどウソです。A→B→Cの順にパワー管に電流が流れにくくなりますが、純粋のA級は無音のときに最大の電流が流れます。A級アンプの出力は最も低く、よく使われる6L6GCでは2本で15W,4本で30W程度です。フェンダー社のツインリヴァーブは同球4本で100Wです。この理屈は次回に。

 1. わが国のPA事始め
1973年6月、ラテンロック・バンド、サンタナが武道館で初ライブしたとき、会場音響のトータル・パワーは8,500Wだったそうです。当時の家庭用ステレオが15W+15W程度でしたから、いかにこのライブがハイパワーだったか。スピーカーも山のように積み上げ、とにかく大迫力・大音量のコンサートにしようとしていました。それから30年を経て、ライブ音響の環境は大きく変わりました。音量はむしろおさえ気味になり、遠くの観客まで明瞭なサウンドがしっかりと届くようになっています。かつて「音の悪い」武道館は今や聴きやすい会場となりました。パワー・アンプも数分の一の規模で軽く1〜2万Wを実現しています。サンタナの初ライブで使われたクラウン(アムクロン)製は300Wでしたが、今や一台で2〜3千Wの出力のアンプがザラにあります。録音の世界でも、たとえば「ウイ・アー・ザ・ワールド」(1985)に使われたデジタル・レコーダー(多分、三菱製?)は1千万円クラスでしたが、今では同等以上の機能・性能のものが1/10以下で手に入ります。楽器も同じで、スティービー・ワンダーが名盤「キー・オブ・ライフ」(1976)で使ったアナログ・シンセサイザー、ヤマハGX-1は、'75年当時で750万円もしたそうです。デジタルを中心に音楽制作の環境は劇的に向上しました。手軽に「音楽をやる」ことができる時代になったのです。みんなで楽器を奏で、マイクで歌いましょう。


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